濃緑色の碧玉製魚形盒の中に白玉製印章・硯・筆・洗を身に組み込んでいる。魚頭部は蝶番で開き、蓋・身とに刻まれた溝をスライドすることによって蓋・身は分解できる。全てを取り出した状態で魚を立てて文房飾とすることができる。かって類品を見ない形式。魚身部には「牀前明月光疑是地上霜挙頭観明月低頭思故郷」 御賜 康煕乙酉年春月御製 康煕年製 が刻され、金が施される。李白の本歌「牀前看月光疑是地上霜挙頭望山月低頭思故郷」を幾分変えていると知れる。印面は「康煕之寶」。
康熙帝が1705年に下賜した作品と知れる。後世誂えた収納箱が付く。
文房具の美術史は五代以降、宋代・元代・明代・清代と約1千年にわたって継承されてきた。その間に作られた文房具で鑑賞性の高いものを古文具と呼んでいる。つまり古文具は初めから鑑賞を意図して作られた美術工芸品である。素材の精選はもとより、あらゆる工芸の粋がそこに傾注された。そこにまた愛好家と呼ばれる人たちが現れた。有名な蘇束坂や米元章などは良い文房具を集めて、こよなく愛玩した。それは実利というよりも、主に精神的な薀蓄を計ろうとしたに他ならない。それはまた現代人にも通ずることである。文房具は元々文人にとって生命よりも大事なものであった。書きやすい、使いやすいということよりも、教養として身につけた。大げさに言えば、文房具に精通していなければ一流の文人にはなれなかった。中国の今でも文房具の評価は圧倒的で、競売価も高価なことは驚く程である。文字の国・中国ならではである。長年中国北京で仕事をした著名日本人の旧蔵品。清朝崩壊前後には膨大な美術品が故宮・富家から流出した。
骨董狂いという言葉がある。ある人が「名品など持つと人生が狂ってしまう」と言った事がある。がしかし、人生など所詮狂いっぱなしで終わるのではあるまいか。誰一人として思い通りの人生を送れる人などいるまい。それならいっそ骨董狂いで終わったほうが人間的であろう。大事なのはそれを生活や仕事に上手に生かすことに尽きようか。 |