中国における銅鏡は、古く殷時代頃から作例があり、以後、歴代にわたって夥しい数の製品が製作され、巷間に広まって言った。時代によって大きさや意匠は様々で、唐時代にはこの鏡のように螺鈿という斬新な技法によってきらびやかな装飾を施したものもかなり製作された。螺鈿とは夜光貝やアワビ貝等の殻を削って文様の形に細かく切り、漆地や木地の表面に貼り付けたり、嵌め込んだりして研ぎだした装飾技法。貝の放つえもいわれぬ艶麗な輝きが時代の気風にあったものか、唐時代にはことに好まれた。
日本へは遣唐使の活躍した奈良時代に伝来し、工芸品の主要な装飾技法の一つとして普及していった。室町時代以後、蒔絵に用いられた金貝というのも平脱(金銀などの薄板を漆地に塗りこんで研ぎ出す)と同系統の技法といえる。螺鈿・平脱鏡は後補等が多く、うぶで確実な遺例が極めて少なく、本来は様々なテクニックを駆使して華麗美を演出していたものと考えられるが、その技法としての全貌・多様性は現状では全く不明といえる。地の漆部も損傷無く、当初の状態を良く保っている。 |